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新型コロナウイルス 持続可能な対策を目指して
厚生労働省クラスター対策班の西浦博教授に聞く

※2020年4月6日掲載時点での記事です。1次情報は厚生労働省や首相官邸、地方自治体など公的機関からの情報をご確認ください。

リスク・コミュニケーション

リスク・コミュニケーション

合意形成は長期的計画だが、クラスター対策班の現状や問題点を共有するためにリスクコミュニケーションの部隊も設置した。下手に情報を出すとパニックにもなりかねない。情報を出したときに国民がどう行動するかを想定し、どうやって伝えるかを考えなければならない。これはかなり重要な話だ。

中でも、省外で医療倫理専門家が動きはじめており、難しい問題であろうと思われるのがトリアージだ。欧米で感染爆発が起こったとき、あるメディアに「医師たちが直面する過酷な判断」という記事が掲載された。ゼロリスクを考えがちな日本ではまだ今のところ全員が助かるという前提の下に、重症化しやすい高齢者を優先するとされている。しかし欧米では誰を助けるかの裏側で誰を助けないかという決断がなされるというのだ。

西浦教授は言う。「今までの危機管理のコミュニケーションは、震災のときもそうだったように専門家任せでした。専門家がベストと考えることに国民は静かについてきてもらっていた。つまり国民が肌で感じるような近い距離でリスクコミュニケーションが必要な場面は今までなかったのです。今回は、おそらくそこまで踏み込まなくてはならないと思っています」

国民にインパクトを与えるという意味では、安倍首相が言い出した「全国の小中高を休校にする」というのは大きかった。ただこれは西浦教授に言わせれば、「日本で実施した学校閉鎖は科学的には明確に効果があったかどうかは判断ができず、さらに、子どもの感染も少ない」という。インフルエンザの場合は、子どもの間で感染が広がり、それが高齢者に移るという構造がある。だから学級閉鎖の意味があるが、このコロナウイルスの場合は、子どもの間ではほとんど感染が起こらない。

小中高の休校要請を打ち出したときには、すでに子どもの伝播は少なそうだという知見は出ていたという。それでも学校閉鎖が政策として打ち出されたのは、政府内に新型インフルエンザのときの行動計画があるからだ。このマニュアルを読んで政策を考えた際に、オプションの中に自然と入ってきてしまったのだろうと西浦教授は説明する。

それでもいま、専門家会議の議論は健康的なほうに向かっているという。科学的には分からないとはっきり言えば、それなら捨ておこうというような議論ができている。そういう意味では「比較的に対応準備が可能な状態で流行が起こったと思っています。データ分析のエビデンスもそうとう重視していただいてます。今までの流行とはだいぶん違います。国民のリスクに対する認識も2009年のパンデミックとは数段違っています」

これから最も気をつけなければいけないことは何か。一つは「輸入感染者」だ。「データを見ていると、国外から入ってきた感染者のうちまだ診断されていない人がきっかけで起こったと思われる感染が増えています。いますごい数の人々が帰国しています。単純な推定では、中国から帰ってきた人の20倍をという水準です。だから最初は首都圏か大阪で感染が起こるリスクが高いですね」

3月25日、外務省は全世界の地域に関して危険情報レベルを2とし、不要不急の渡航を止めるよう勧告した。さらに「輸入感染者」が連日10人を超えて確認されていることなどを踏まえ、3月31日には49カ国について危険情報レベルを3に引き上げた。西浦教授に言わせれば遅すぎる決断だったが、省庁をまたぐ政策は時間がかかるというのが現実だ。よく言われることだが、アメリカにはCDC(アメリカ疾病予防管理センター)という強大な権限を持つ機関がある。そこで科学的なエビデンスに基づいて政策を助言していく。今回は何とか抑え込めても、感染症またいつかやってくる。それが致命率の高い強力な感染症だったとき、今回のような対策で果たして乗り切れるのだろうか。政策がどれだけ科学的に決定され、その効果はどうだったのか検証すべき課題はあまりにも大きい。

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