破壊的・インクルーシブ・イノベーション
~グローバル・インパクトを加速し、SDGs達成を目指して~
インクルーシブ・イノベーションの可能性に迫る
GRIPSシンポジウム

海外と日本が交差するシンポジウムとして

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田中明彦氏
 「破壊的・インクルーシブ・イノベーション~グローバル・インパクトを加速し、SDGs達成を目指して~」と題された本シンポジウム。第1部は、海外の事例から学び、社会課題解決の可能性をどう探るかに焦点が当てられました。第2部は、日本の事例を見ながら、海外から学んだことを日本でどう応用していくのか、そして日本でどのような取り組みが行われているのかが議題となりました。
 コンセプトは、インクルーシブ・イノベーション(包摂的なイノベーション)。1日目のラウンドテーブルの議題を引き継ぎ、持続可能な開発のための新しい道筋は破壊的なものであるという考え方です。イノベーションに取り残されている人々を考えることも重要なポイント。だからこそインクルーシブでなければならないという視点は、SDGsで謳われていることにも通じます。
 冒頭、田中明彦政策研究大学院大学学長から、大学ではSDGsを研究教育の方向性を指し示す枠組みとして採用しており、SDGs目標達成のためには、開発課題の解明やODA等の援助に加え民間分野も巻き込んだ積極的かつ地道な努力が必要であること、そこに科学技術イノベーションをどう活かしていくかが重要なテーマであることが述べられました。

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飯塚倫子氏
 続いて、飯塚倫子政策研究大学院大学教授より、本シンポジウムの目的が述べられ、我々が抱える気候変動、貧困、格差、紛争など様々な問題に対して、革新的なソリューションを提供できる仕組み作りが求められていること、その仕組み作りにあたっては、誰も取り残さないという包摂性をも担保する必要があると述べられました。
 そして第1部は、ロンドン大学教授のジョアナ・チャタウェイ(Joanna Chataway)氏による基調講演「なぜ今、インクルーシブ・イノベーションなのか」からはじまり、続いて第三国科学アカデミーレノボ2018を受賞したインド国家研究教授のR・A・マシェルカ(R. A. Mashelkar)氏による基調講演「より良いものを多くの人の手に。インクルーシブ・イノベーションの可能性」が行われました。

インクルーシブ・イノベーションの本質に迫る2つの基調講演

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ジョアナ・チャタウェイ氏
 発展途上国でインクルーシブ・イノベーションに取り組むチャタウェイ氏。基調講演では、その定義をまず取り上げました。イングランド・サセックス大学のラファエル・カプリンズキー(Raphie Kaplinsky)氏の報告書に基づいて示されたのは、経済、社会、環境の持続可能な発展に貢献し、それによって経済成長の成果がより公平に分配されるということ。重要なのは「公平性」の概念であり、イノベーションの成果は中長期的にみれば必ず便益をもたらすという理論に対して、イノベーションの成果は常に失うものよりも大きい便益を生むのかという新たな問いを生んだ、と述べました。「イノベーションの速度と方向性を考えることがインクルーシブ・イノベーションである」との考えを述べ、低所得者を含めイノベーションの受け手が何を求めているかを理解してニーズに応える技術が重要であると続けます。それは単なる消費者の需要ではなく、もっと幅広い組織的、制度的なものとして捉え、二つの際立った例を挙げました。
 一つ目は、ケニアで低所得者が金融にアクセスできるようになった技術「M-Pesa」。ケニア国内で生まれ、普及率と伸び率が非常に高いサービスです。その発展には3段階あり、ユーザーを理解して成功の条件を明らかにしたのが第1段階、民間だけでなく英国開発省やケニア政府など政府が出資、規制環境の整備をすることでユーザーが急速に増加したのが第2段階。しかし第3段階では、金融政策や電気通信政策、ビジネス環境が変化し、ライバルや他のサービスも増加。M-Pesa自体は成功であったものの、それはインクルーシブ・イノベーションの一つのモデルにすぎなかったわけです。二つ目の事例は、ヨーロッパのファンディング活動関連。ヘルスケアの研究開発の需要において、資金供与を受けたプロジェクトと、実際に現地の健康向上につながるものの間にギャップがある事例を提示しました。
 さらに、インクルーシブ・イノベーションのインフラづくりに目を向けることと、政府と民間の新しい協業の必要性を述べます。その中でSDGsは、経済成長と不平等の縮小を考える上で大きな役割を果たす手段となり、包摂的なイノベーションを考えるときにインスピレーションを得られるものであると締めくくりました。

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R.A. マシェルカ氏
 続いて登壇したマシェルカ氏はまず、More from less for More(MLM)―より多くのもの(More)を、より少ない資源(Less)から、よりの多くの人へ(More)―、の考え方を紹介。そして、科学の成果は、より貧しい人に提供されるべきで、ニーズは満たしても全ての欲を満たすものではない。限られた資源から多くのものを提供しなくてはいけない、と続けます。そして破壊的でインクルーシブなイノベーションに必要なのは、加速化された成長といいます。どのように加速化し、どう克服していくのか。その答えについて、インドのリライアンス(Reliance Industries)の傘下で携帯電話大手であるジオ(Jio)が急成長を遂げた事例を挙げました。ジオのケースから、「競合他社を恐れるとカエルのように少ししか跳べない。必要なのは棒高跳び的な大飛躍だ」というメッセージを伝えました。
 MLMとは、質の高さと安価を両立するものだといいます。その成功のために示されたのが、アシュワード(ASSURED)という方程式。安価で(Affordable)、拡張可能性があり(Scalable)、持続可能で(Sustainable)、ユーザーに優しく(Universal)、プロセスが素早く(Rapid)、卓越していて(Excellent)、かつ特徴的である(Distinctive)というものです。アシュワードのモデルは時間と共に変化する動的なもので、先に話題に上がったジオなどは、アシュワードの特徴をすべて備えた成功例。反対に、いずれかの要素を満たしていなかったために失敗した例も提示されました。
 「誰にでも手が届くような価格で、品質は犠牲にしてはならない。その技術を一方的に供給するのではなく、消費者を念頭に置いたアプローチをして、これまでなかったような市場に投資をしていくことが必要になる」。そう語るマシェルカ氏は、資金確保、アシュワード、エコシステム、そして内部と外部の障壁の解消を成功の鍵に挙げました。外部の障壁とはインフラ、規制、物流、政府や民間との取り組みなどです。そして総括として、カエル跳びから棒高跳びへの飛躍がインクルーシブ・イノベーションには欠かせないこと、隊列から離れなければブレークスルーは生まれないことを訴えかけました。

市場・体制・人材をつくるということ

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アルフレッド・ワトキンス氏
 基調講演を終えたチャタウェイ氏とマシェルカ氏に加えて、グローバルソリューションサミット議長のアルフレッド・ワトキンス(Alfred Watkins)氏、世界銀行ICT政策スペシャリストのヴィクター・ミュラス(Victor Mulas)氏、ベトナム国立科学技術政策研究所シニアフェローのカ・トラン・ゴック(Ca Tran Ngoc)氏が登壇し、それぞれの立場と視点を紹介しました。
 ワトキンス氏は、新しい技術を発明することと研究者がニーズを知ることが重要だと考え、イノベーションを行き渡らせるマーケットづくりとエコシステムの必要性を訴えました。その考えをフォローするのはスタートアップ企業だと語ったのはミュラス氏。世界銀行でも協業しているスタートアップの分析やエコシステムの形成と醸成について述べました。ゴック氏は、大学はインクルーシブ・イノベーションに貢献できるのかというテーマでインドネシアなど他国の事例を提示します。政策提言ができる大学の役割や、産学官の連携を考えなければいけないことを、東南アジアの実践的な視点から紹介。一連の発表は各パネリストの意見が収斂されたものとなりました。
 続いて、飯塚倫子政策研究大学院大学教授とジェラルド・羽根政策研究大学院大学客員研究員/日立製作所がファシリテーターを務め、パネルディスカッションが行われました。シェアード・エコノミーについてさまざまな意見が交わされ、「小規模で分配型というイノベーションの中で画期的な考え方である」とワトキンス氏は述べました。

写真  イノベーションを共創して地域経済のニーズに応えるための課題という論点では、ミュラス氏がインド国内でインナー・イノベーションを起こし、製品は先進国に売ることで成功をおさめている企業を分散型経済の一例として挙げました。インドに話題が及ぶと、マシェルカ氏もある地方の問題を紹介。イノベーションによって整備されたトイレが、住民がオープンに話し合っていた環境を変えてしまったといい、地方の条件や文化を考えながら製品やサービスをつくる重要性を示しました。ゴック氏によると、ベトナムでは太陽光発電によって以前は考えられなかったゴム栽培が行われ、新しいライフスタイルを生み出しているといいます。イノベーションを担う人材の能力開発についてチャタウェイ氏は、地域社会と協力して大学を改革していかなければいけない段階にきているとの考えを述べました。
 イノベーションは今、技術からデザインや設計へシフトしていくことが求められています。ビジネス成功のための重要な要素であり、ベンチャーキャピタルや大企業が時間をかけて取り組んでいる部分について、製品やサービスの前に、市民社会における意識や共感を考えることの大切さが議論されました。その後はパネリストに向けて来場者から多くの質問が寄せられ、とても示唆に富んだ質疑応答となりました。

これからの日本のあり方を考える

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赤石浩一氏
 続く第2部は、赤石浩一内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション・原子力担当)による基調講演「Society5.0に向けた戦略計画」からはじまります。我が国の抱える少子高齢化、格差と分断などの課題に対し、2016年に打ち出した「Society5.0」にSDGsを組み合わせることで、日本として世界のインクルーシブ・イノベーションに貢献する考えが述べられました。現在取り組んでいるのは、多分野を全てつなぐプラットホームづくり。それらを実装するスマートシティ実現のチャレンジや、AIを活用するストラテジーの構想、そして、我が国の科学技術イノベーションをSDGs達成に向けた、2030年までの国のロードマップ策定も発表されました。
 続いて、飯塚倫子氏と角南篤政策研究大学院大学副学長がファシリテーターを務めたパネルディスカッションには、文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課長の西條正明氏、経済産業省経済産業政策局産業創造課長の佐々木啓介氏、JICA社会基盤・平和構築部長兼国際科学技術協力室長の安達一氏、経団連産業技術本部の小川尚子氏、スタートアップカフェコザ代表の中村まこと氏が登壇。G20やTICADのホストとなる日本が今できること、これから発信していくことなどについて意見を交わしました。
 西條氏は、「社会課題解決をし、新たな価値を創造するという観点では、地域はまさに課題の宝庫」とした上で、文科省が実施する地域社会に科学技術を根付かせ拡大するためのプロジェクトが紹介された。その例として三重大学でのトマト工場の事例が挙げられた。また、2019年度からは、地域の社会課題解決のために科学技術を活用する事業として「科学技術イノベーションによる地域社会課題解決(INSPIRE)」をスタートし、ソリューション型の研究開発支援が強化されていくとのこと。続く佐々木氏は、新たなテクノロジーが出てくる中で、技術はツールであり、むしろ社会的なビジョンをしっかり議論していくことが大事であると、訴えました。貧困、教育、ITリテラシーなど、格差・断絶といった社会課題に対して、いかに日本の科学技術を通じて世界の利益を最大化できるのか。2018年に設立した「第四次産業革命日本センター」がグローバルなオープン・イノベーションのハブとなるようにしていきたい、と述べました。
 安達氏からは、途上国の課題解決と技術活用について発言があり、開発課題解決に日本のもつ技術・経験・知見を活用する際のJICAの可能性について述べられました。インクルーシブ・イノベーションは、企業、政府だけで行えるものではない、様々なアクターをインボルブしながら、その人たちとの関係性で新しいエコシステムを構築する必要があるとの見解。ローカルコンテクストを踏まえながら、新しい技術と現地の人材をどうつないでいくかが重要、と述べられました。

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西條正明氏(左上)、佐々木啓介氏(右上)、小川尚子氏(左下)、安達一氏(右下)
 また、小川氏からは、経団連で強く打ち出している「Society 5.0 for SDGs」が紹介される。デジタル技術の進歩を所与のものとして、人間にしかないイマジネーション(想像力)とクリエイティビティ(創造力)をいかに使いこなし、より幸せな社会を築きあげていくか。そこには、マイノリティの声に耳を傾けるダイバーシティー(多様性)が大きな鍵となると言う。女性、スタートアップ、外国人、障害者、高齢者など、これまでマイノリティとされてきた人々の声を拾い、ディスラプティブで、インクルーシブな世界を目指していきたい、と述べました。

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中村まこと氏
さらに、スタートアップから中村氏は、日本の企業は未来を描けなくなってきている、と指摘。描いた未来に向かう過程にイノベーションがあるのであり、イノベーションは目的ではない。さらに、社会システムとして社会に実装して初めてイノベーションが起こると続けます。それを実現するため、実証実験ができる街として沖縄市を目指している。今の時代は、いわばインクルーシブなイノベーションと言われるようなものでなければ、イノベーションは起きない、との見解を示しました。
 Society5.0のメッセージは掲げるものの、実態が伴うかどうかは別の問題です。日本においてスタートアップ企業やイノベーションの影響が及ぶスピード感とボリューム感は全国的に見るとまだまだ物足りません。Society5.0を実質的かつスピーディーに実現していくためには、どのような課題と解決策があるのでしょうか。産学連携活動やアントレプレナー教育にも取り組む西條氏は「各大学で学生に会うと、みんな面白い発想をしていて本当に元気がいい。そんな若者が働ける土壌をどうつくるかが大事」と語ります。「マネジメントを変えていく必要がある」という中村氏や、「議論していないで実行した方がいい」という小川氏の力強い発言など、活発な議論が展開されました。その後、来場者とパネリストの間で質疑応答が交わされ、第2部が幕を閉じました。
 本シンポジウムには海外からも多くのアクターが集い、日本が本当に変われるのかを外から見ることのできる機会でもありました。その中で、政府、民間、産業界を代表するアクターから新しい意見が次々に出ていたことは、今後の課題に挑戦している日本からのメッセージとして発信できたのではないでしょうか。インクルーシブ・イノベーションに関して海外の事例から得たものと、Society5.0 for SDGsをスピード感とボリューム感をもって実現していく姿勢が確かに示されたシンポジウムとなりました。

だちはじめ
PROFILE
JICA社会基盤・平和構築部部長。上智大学文学部哲学科卒。
1985年JICA入団研修事業部研修第1課
1996年JICAタイ事務所
1998年JICA総務部総務課課長代理
2001年カンボジア開発評議会復興開発委員会援助調整アドバイザー専門家
2003年JICA社会開発調査部社会開発調査2課課長
2004年JICA地球環境部水資源・防災グループ長
2009年JICA地球環境部計画調整担当次長
2011年JICA東南アジア・大洋州部審議役兼計画調整・ASEAN連携担当次長
2015年JICAカンボジア事務所所長
なかむら まこと
PROFILE
福岡県北九州市出身。スタートアップカフェコザ代表として起業による地方創生の成功例として多くのメディアに掲載され、行政機関より多くの視察を受ける。総務省ICT地域活性大賞奨励賞受賞。スマートグリット、IoTなどに関して講演を多数行い、大学などで講義も行う。りゅうぎんスタートアッププログラムの設計・運営アドバイスに当たる。西日本最大のシェアオフィスfabbit設計に参画。その他、福岡市スタートアップカフェアドバイザー、琉球大学非常勤講師。