国境を越えるパイオニア
~SDGs達成に向けた破壊的インクルーシブ・イノベーションと
ベンチャーの可能性・挑戦~
GRIPSラウンドテーブルから見えてきた
イノベーションの新しい道筋

政策研究大学院大学は、SciREXセンター(科学技術イノベーション政策研究センター)が主導する「破壊的・インクルーシブ・イノベーションプロジェクト」の一環として、ラウンドテーブルとシンポジウムを2日間にわたって開催。2019年2月14日に開かれた1日目のラウンドテーブル「国境を越えるパイオニア~SDGs達成に向けた破壊的インクルーシブ・イノベーションとベンチャーの可能性・挑戦~」では、社会価値を生み出していくイノベーションの新しい形が見えてきました。

いまだ世界に点在するビジネスチャンス

写真
アルフレッド・ワトキンス氏
 「国境を越えるパイオニア~SDGs達成に向けた破壊的インクルーシブ・イノベーションとベンチャーの可能性・挑戦~」と題された1日目。SDGsで掲げられている社会課題を解決するためのイノベーションのあり方、グローバルに展開していくためのビジネスモデル、それを支える政策などについてのラウンドテーブルが開かれました。
 冒頭の話題提供では、グローバル・ソリューション・サミット議長を務めるアルフレッド・ワトキンス(Alfred Watikis)氏が登壇します。同氏はまず、近年の技術進歩のスピードの速さが世界に大きな影響を及ぼすというメガトレンドについて言及し、それが新たなビジネスチャンスを生むという。マッキンゼーやアメリカ合衆国国際開発庁(USAID)での調査に触れ、破壊的イノベーションが2025年までに生み出す経済価値を14兆ドルから33兆ドルにまでなるとし、人口増加、購買力の拡大、経済成長、都市化の進展という大きなトレンド新興市場において起こることが示され、その波にいかに乗るかの重要性が述べられました。特に都市化の進展をみても、毎年新しい東京が7つから8つできる規模に相当するという国連の調査結果に驚きを隠せなかったと言います。
 一方、インドにおいて2030年に存在する建物の70%はこれから建築され、2050年までに導入されるであろう都市インフラの75%はまだ存在していないという大きなビジネスチャンスがあると続けます。それを勝ち取るには、これまでのような中央集権型ではなく小規模な分散型のイノベーションが鍵になるということを提示。そして『The Prosperity Paradox』という本から引用し、いまだ消費者となっていない隠れたターゲットにどうアプローチするかが、さらなるビジネスチャンスを勝ち取ることにつながるという見解が述べられました。
 この話題提供を受けて、ラウンドテーブルにはベンチャー企業、起業家、VC(ベンチャーキャピタル)など総勢21名が集結しました。ファシリテーターを務めたのは、ジェラルド・羽根政策研究大学院大学非常勤講師/日立製作所と飯塚倫子政策研究大学院大学教授。イノベーターがラウンドⅠとⅡの2回に分かれてテーブルを囲み、イノベーションとベンチャーのこれからのあり方について、それぞれの事例と持論をもとに熱い議論が交わされました。

国や地域に合わせたエコシステムの拡大

写真  ラウンドテーブルⅠでは、EDGEofのトッド・ポーター(Todd Porter)氏、株式会社サムライインキュベートの榊原健太郎氏、Jio Gen Next Venturesのエイミー・マシェルカ(Amey Mashelkar)氏、株式会社ドリームインキュベーターの細野恭平氏、株式会社Makuakeの中山亮太郎氏、日本植物燃料株式会社の合田真氏、Doreming Ltd.の吉房純輝氏、ウミトロン株式会社の山田雅彦氏、メビオール株式会社の森有一氏、アクプランタ株式会社の金鍾明氏が登壇。まず「より良いマーケットアクセス」をテーマに多くの人がイノベーションへアクセスすることで、よりグローバルなインパクトを生み出すための関わり方について議論が行われました。
 ポーター氏の「技術、イノベーションだけに偏重するのではなく、破壊的な技術が社会に伝播されるべきところにどのような仕組みを構築するかが重要。日本には中小企業を含めて素晴らしい研究開発能力がある。これをいかに社会・人に展開していくのか、イノベーションのためのインフラが重要だと考えます」という発言をもとに、VCがエコシステムに見出す価値について議論が及びます。榊原氏は世の中の社会課題を解決できる人材への投資し、ビジネスを生み出し雇用を創出する、アントレプレナー教育を通じて持続的なイノベーションの仕組みを作っているといい、マシェルカ氏はエコシステムにおけるバリデーション(検証)が最初のファンディングにおいて重要であると語りました。
 イノベーションにおいて、アイデア自体の創出をいかにエコシステムに組み入れるかの重要性を述べたのは中山氏。マーケティングやプロモーションなどの全てをワンストップ化することを目指しているといいます。細野氏は、日本の大企業のある部門がスピンオフして今のビジネスになっていることを指摘。大企業におけるボトルネックの課題や、VCと大企業との関係に触れながら、意識改革の必要性を示しました。

写真  VCからはイノベーションのエコシステムにおいて、プラットフォーム構築の重要性に話題が及んだ一方で、アントレプレナーにとっては、エコシステムが自社拡大にどのような役割を果たしてきたのでしょうか。「エコシステムの中のプレイヤーでインセンティブが違う」と言う山田氏は、利益と公益の両方を自分のインセンティブとして設定し、あらゆるプレイヤーを巻き込むことで新事業の創出に取り組んでいます。吉房氏は大企業の一チームに少し手伝ってもらうような仕組みをつくることで、プラットフォームの急速な拡大を目指しているといいます。森氏は、新しい素材によって工業や農業に新しいエコロジーをつくることが一つのエコシステムとの考えを示しました。
 研究者の研究成果の社会実装という観点から意見を述べたのは金氏。研究者は研究しかしてきておらず、社会実装やビジネスのことは分からなく、誰と一緒に手を組んでいくのか分からないことばかり。海外にビジネス展開するにも、国ごとに経済システムや社会構造が違えばアプローチも多岐にわたるため、規制・標準化など政府も入れたかたちでエコシステムやプラットフォームを検討する必要があると、訴えました。国際的なシーズの発展における課題は、政府機関と官民連携の部分でエコシステムの形成に取り組んでいる合田氏の悩みにも共通しているといいます。どう克服するかについては、アフリカ・モザンビークでのモデルケースを成功させること横展開につながる可能性を示しました。また、規制があるがゆえに日本ではできない事業を海外展開するという事例もありました。吉房氏は海外におけるスタートアップの強靭性を実感し、山田氏は食料問題の解決につながる水産養殖は、国境がない海のポテンシャルを秘めているといいます。
 登壇者の議論を通して見えてきた、エコシステムを通したスタートアップ、VC、大企業、政府機関等「共創」という考え方は、イノベーションを社会で展開し大きなインパクトを与えていく上で非常に重要になってくるといえます。単一の大企業だけがイノベーションの担い手ではなく、各国や各地域にベンチャーの力を分散し、ネットワークやリソースへのアクセスを提供して、イノベーションを現地に合わせていく。それが新しいビジネスチャンスの扉を開くことにつながるはずです。
 熱い議論が交わされた後、関心の高い来場者から多くの質問が寄せられました。研究者のパートナー探しに困っている研究者に対して、補助金などのサポート制度を国へ提言する必要があるなど、さまざまな質疑応答の後にラウンドテーブルⅠは終了しました。

規制にとらわれない新興市場でのイノベーション

写真  休憩を挟んで行われたラウンドテーブルⅡにも先鋭のイノベーターが登壇。スタートアップカフェコザの中村まこと氏、一般社団法人C4の伏見崇宏氏、East Ventures株式会社の梅澤亮氏、Mistletoe株式会社の中島徹氏、株式会社AGREEの多賀世那氏、株式会社Lily MedTechの東志保氏、トリプル・ダブリュー・ジャパン株式会社の中西敦士氏、株式会社ユカシカドの美濃部慎也氏、株式会社スマートドライブの北川烈氏、株式会社チャレンジの佐々木和男氏、株式会社ABEJAの加藤道子氏がテーブルを囲んではじまりました。
 エコシステムビルダー、ベンチャーキャピタル、プラットフォーマー、アントレプレナーがいる中、中村氏が挙げた「イノベーションを考える上で、これまでの金融工学に基づくイグジットありきの投資は難しい世界になる」という問題に対して、伏見氏は「社会的課題解決にチャレンジするアントレプレナーに資金が回るよう社会的責任投資の仕組み作りを東北でチャレンジしています」と答えます。また中村氏は、自身の活動について、ITのプログラミング教育と同時にアントレプレナー教育を行うことで、地域や社会課題にチャレンジする人材を育成している、と紹介。大学や行政・政府など多様なステークホルダーと協力し、支援を受けるのではなく、提言を出していけるようになることが重要だと指摘しました。
 海外で成功するベンチャーの特徴に「成功している会社は意思決定する人たちが適切なタイミングを取れるという共通項がある」と述べた梅澤氏。「フューチャー・ビジョン・ストーリー」を描く戦略をとるという中島氏は、技術分野への投資ではなく、将来はこうなるという将来像を哲学的議論も踏まえて描き出し、必要となるテクノロジーやサービスに投資していく。そして、そのテクノロジーがなければ投資せず自分たちでプロジェクト化していく、といいます。
 一方、ベンチャー企業側の課題として、地方で培ったノウハウは海外でも通用するのでしょうか。また、その逆もしかりです。これについて多賀氏は医療分野の立場から、地方自治体の高齢者の興味は目下のところスマートフォンであり、都心にも浸透していないプラットフォームが根づく土台はできつつあると述べました。また、医者も水も世界的に「偏在」していることが問題であり、そこにスマートなプラットフォームを展開する余地があると見ます。東氏は、先進国への進出は既存のインフラの問題から安全性に関する厳しいエビデンスを求められることを課題に挙げ、日本でエビデンスをためた次のステップで展開する考えを述べました。

写真  自動車産業のグローバル進出には「規制より見せ方」という北川氏は、ドイツのインダストリー4.0を例に挙げて、国内企業を花形にするという国のサポートを評価。日本の良いものを良いストーリにのせてセンスよくPRしていくところのサポートが必要と指摘。加藤氏は、ビジネスに使われるデータ=危険、ではなく、AIとプライバシー両者を両立できる規制のあり方を探ってほしい。日本は、まだまだ製造業とリテールが強い、高効率な小売店舗や工場を日本ブランドとして海外に輸出する事業を進めているといいます。
 また、スタートアップにとって、資金と人材は競争力に直結する大事なエレメント。美濃部氏は給与外の税制サポートや、大企業との情報交換において規制が必要という国への提言を示し、中西氏と中村氏から同意の声が上がりました。「なぜイノベーションが新興国で起こるのか。それは規制がかからない場所でエビデンスをためて逆輸入しているから」という中村氏は、今後この動きが肝になるといいます。美濃部氏は「リバースイノベーション的な観点は考えていて、さらにリテラシーも醸成されたら日本で生きるのでは」と見解を示しました。中島氏は、規制が厳しいアメリカのドローン会社を例に挙げ、規制がかからないルワンダで展開していた血液を送るサービスが妊婦を救ったという事例が紹介され、一同に共有されました。
 ラウンドテーブルⅠと同じく行われた質疑応答では、大企業はまだまだ旧態依然のスタイルであることや、日本政府が掲げるSociety5.0とのギャップなどが指摘されつつ、時間内では答えきれないほど多くの質問が寄せられ、続くネットワーキングで大いに議論されました。

新しい社会価値を生み出すための道しるべ

写真  2回に分けたラウンドテーブルを終えて、この日のラップアップの時間を迎えます。飯塚教授は総括として、一つ目は社会的な課題によって需要や市場が生まれること、二つ目は技術の変化が新しい形で社会の問題の解決に資すること、そして三つ目に新しいビジネスモデルを挙げ、「新しいチャンスがニッチ市場に生まれてくるということです。本日議論した問題をどのように持続可能なエコシステムにしていくか。それが今、私たちが直面している状況だと思います」と述べました。
 また、羽根氏は、SDGs、Society 5.0、インクルーシブ・イノベーションの実現のためにテクノロジーの研究開発と同時に、現地のニーズに合うビジネスモデルを作り消費者に届けていくためのプラットフォームが重要であると述べ、今後継続してリサーチを進めていく、とまとめました。
 最後は、黒川清政策研究大学院大学名誉教授が登壇。さまざまな形をとるイノベーションは新しい社会価値を生み出すものであり、既得権益を壊すものであるとの見解を示します。いまだ変わらない経済システムや社会構造から抜け出せていない日本において、国への提言に頼ることではなく、ここに集まったイノベーターが自分の手で実行していくことがイノベーションを起こすと結び、閉会となりました。
 イノベーションのフロントラインにいるベンチャー企業、スタートアップ、VC、さらに行政や民間から市民社会まで、あらゆるセクターから多くの来場者が訪れた1日目。イノベーションとベンチャーの可能性が議論されたラウンドテーブルを通して、これから我が国のとるべき政策や戦略が新しい局面を迎えたことが示されました。

写真

ROUND TABLE 2 15:05 - 16:35

※順不同

株式会社スマートドライブ きたがわれつ
PROFILE
2013年10月設立。車の走行ビッグデータを収集、解析し世の中の移動をより安全に効率化を目指すモビリティ領域のIoTスタートアップです。法人個人向けに事業展開をし、アジア展開の第一歩として深圳に拠点を構え研究開発を進める。
株式会社ABEJA とうみち
PROFILE
2012年2月設立。蓄積されたビックデータから、人間の手を介さずしてそのデータを適切に表現する特徴量を自動的に抽出する「ディープラーニング」を活用し、多様な業界における産業構造変革を推進するベンチャー企業です。
株式会社チャレンジ かず
PROFILE
2009年4月設立。防災・防犯製品を製造する会社です。「私達はこの事業を心を込めて遂行し、最先端技術で日本と世界に貢献する」を経営理念とし、お客様のニーズに合わせて、製品・システムを企画、開発、製造を行っています。各国でセンサー内蔵地震報装置EQガード、無線式緊急通報システムスクールガード・ホスピタルガードを展開しています。
ページの先頭へ