INGSA総会ハイライト 変化する世界における科学的助言

総会の様子政府に対する科学的助言に関する国際ネットワーク(International Network for Government Science Advice: INGSA) 政府科学顧問・助言機構関係者によって構成される「政府に対する科学的助言に関する国際ネットワーク(International Network for Government Science Advice: INGSA)」の総会が、2018年11月6日〜7日にかけて本学で開催されました。 INGSAは、科学的助言のあり方や具体的課題、科学的助言が取り組むテーマ等について議論・情報共有を行っています。今回の総会では200名程の専門家や政策担当者が集まり、「変化する世界における科学的助言」というメインテーマのもと、4つの分科会テーマが取り上げられました。

  1. 技術・社会の変革の時代における科学的助言(情報化時代における人間、革新的技術のマネジメント、ビッグデータと政策形成等)
  2. 持続可能な開発目標(SDGs)と科学的助言(人文・社会科学との連携、政策課題のマッピング、民間セクターの役割等)
  3. 科学的助言の将来(信頼の醸成、スキル開発、公共政策と科学助言等)
  4. 具体的事例における科学的助言の課題(災害と科学的助言、持続可能な都市、科学技術外交等)
以下、ハイライトをお届けします。

様々な行政レベルにおける科学的助言 – 地域から世界へ

総会の様子 SDGの達成には持続可能な協働が必要不可欠であるものの、ステークホルダーによって利害が異なるため、全員が満足する解決策の策定困難を極めます。 そのため、SDGは、一般的な政策にも増してエビデンスに基づいた判断を下すことが特に重要となり、橋渡し的存在としての科学の可能性が問われています。 中でも、地方自治体や国政など、様々な行政レベルにおいてどのような権力ダイナミクスが働きかけ、政策の形成や成果を左右するのでしょうか。元マレーシア首相付科学顧問のZakri Abdul Hamid氏は同国の例を挙げ、科学的助言の今後は決して楽観視できないと語りました。

Zakri氏Zakri氏 「マレーシアは1992年の地球サミットで、国土の森林被覆率50%以上をを維持すると宣言しました。実際、3年前の国連食糧農業機関(FAO)調査によると、森林被覆率は67.6%まで伸びました。しかし地域によっては原生林次第に薄くなり、最終的には何も残らない荒地と化したところもあります。世界的な規模で立案された政策は、政策の恩恵を最も必要とする場所での効果になかなか結びつきません。ガバナンス問題や汚職により、本来の目的から逸れてしまうからです。 政策担当者が重要視するのは、助言を取り入れることで雇用が生まれるか、貧困の改善に繋がるかという点です。そのため、科学顧問は政治家に対して明確なメッセージを送ることが鍵となってきます。」(Zakri氏) 対して、Union of Concerned Scientists のMichael Halpern氏は、科学者の意識の変化が好ましい影響をもたらしつつあると指摘し、政治的要因を理由に非公開にされてしまうデータの保護を目指すData Refugeプロジェクトについて言及しました。

Halpern氏Halpern氏 「最近、March for Science*の最も重要な成果は何だったかと聞かれる機会が多々ありますが、それは科学者の社会における自らの役割の認識が根本的に変わったことだと思います。これまで学者間での議論は“政策形成に関わるか否か”が論点の中心でした。しかし、March for Science 以降は政策に関わることを前提に、対して、 “いかに関わるか”が議論されています。 例えばペンシルバニアの科学者主導で始まったData Refugeという プロジェクトがあります。[米国では、政権の移り変わりによって気候変動データ等の透明性が危機にさらされています。]これまでの活動の中では、は、米国政府のウェブサイトから非公開にされたり、アクセスしにくくなり得るデータを大量にアーカイブしました。その過程でメディアや一般市民に、米国政府が大量にデータを集めていることと、データ収集を続けていくことの大切さを訴えました。結果として活動が停滞している米国政府のウェブサイト等の情報源に注目が集まるようになり、政治的な都合や対価を理由に情報が減少することを大きく防ぐことができました。」(Halpern氏) *March for Science: 科学のための行進。気候変動政策や科学研究費に対するトランプ政権の姿勢を受け、エビデンスに基づいた政策策定を求めるムーブメント。活動が開始した2017年には、世界中で100万人程の科学関係者らが参加。

様々なオーディエンスと信頼関係を築くために

科学大国とされていた日本では、3・11を受け、積極的に発言しなかった科学者たちに対する信頼性が急激に失われました。世界的にも、ポピュリズムの台頭やフェイクニュースにより科学に対する信頼が落ちていると懸念の声も上がっています。 しかし、登壇者からは、市民が科学離れしていないことを認識するとこが大切だという意見が次々と上がりました。
「2016年以降はポスト真実の時代と言われるようになってしまいましたが、視点を変えると市民が科学と向き合ってきた成果がよく現れた時期であるとも言えます。英国では[1989年にヒルズボロのサッカー試合で群衆に押し殺された]96名の遺族が、複雑な統計学等やコンクリート・フェンス等の耐久性を理解し、27年後に[警備責任者の過失が認められ]ようやく無念を晴らすことができたのです。私の所属するSense about Scienceでは、このような例をいくつも目の当たりにしています。
…市民が真実に向き合わなくなったというのは、どうも信じられないのです。」 (Sense about Science : Tracey Brown氏) 「世界の市民が科学的根拠を受け止め、様々な課題をクリアしていることは明確です。例をあげると、50年前では高潮によって世界全体で年間約10万人の死亡者が出ていました。しかし、、科学的根拠を活用した判断を下し対策を取ったことで、現在の年間志望者数は1万人未満に抑えられています。。 一方で懸念すべき要素として、アカデミアの中での政治的スタンスの統一化が挙げられます。高学歴層が皆、政治的に左派な立ち位置を取りつつあることで、ポピュリズムによって支えられる権威主義の政治家と、対局的な政治的立場をとる高学歴層との間で分断が生じ、科学的助言の影響力を弱めています。」(University of Colorado Boulder:Roger Pielke氏) また、助言を活用してもらうためには、明確なオプションを提示することだと同氏は語りました。 「例えば2018年に発表されたIPCCの1.5℃特別報告書は問題の重要性と対策の必要性を訴える点においては大いに成功していました。しかし、具体的な政策形成における選択肢は提示されていませんでした。IPCCは二酸化炭素を回収し地中へ封じ込めるBECCSなど、まだ存在しない技術を考慮したモデルに頼っていますが、論点としては挙がっていません。今後助言を実際に活用してもらうためには、科学的な質問に答えることから、政策のための選択肢を提示するスタンスに切り替えることが必要かもしれません。 …ただし、助言を受け入れることと、判断を受け入れることの違いは忘れてはなりません。私たちにとっての成功とは、政治家が科学者の正しいと思う方向性に政策を形成してもらうことではなく、私たちの助言を判断材料として使ってもらうことです。」(Pielke氏)

SDGに向けた人文科学と社会学の助言的役割

SDGは根底的には社会的な問題でもあり、達成には個人単位での姿勢や行動の変化が求められます。いわゆるサイエンスの範疇ではない側面において、人文科学はどのようにSDGの達成に貢献できるのでしょうか。まず認識すべきことは、人文科学や社会学が人間そのものだけに焦点をあてた学問ではないことだとオーストラリア国立大学のSujatha Raman氏は説明しました。

「多くの場合、人々は好んで悪循環の構造やインフラの中で生きているわけではありません。認識や行動などを語るときは、人々が置かれている社会的状況も考慮することが大切になります。 SDG7(エネルギーをみんなに、そしてクリーンに)を例に挙げると、サブサハラアフリカや東南アジアの一部で、薪や炭といった伝統的バイオマスからより近代的なエネルギー源に転換しようという動きがあります。しかし我々がガーナで取り組んだESRC Nexusプロジェクトでは、伝統的バイオマスから転換することが難しい上に、場合によっては望ましくないことさえあることが分かりました。LPGなどより近代的な資源があっても伝統的な料理に必要だ、といった理由から富裕層が石炭に依存している場合もあります。また、石炭の生産から物流と関わるバリューチェーンが大変活発であることも大きな要因です。」(Raman氏) また、ベルゲン大学のMatthias Kaiser氏は、多くの場合技術開発や研究が先行し、後から社会的影響の分析やコミュニケーション面で、人文科学がフォローをするという流れに対して懸念を示しました。 最後に、芸術家も、今後エビデンスに基づいた政策を理解するために非常に重要な役割を果たすとの意見も上がりました。
「フィクションを通して新しい未来について想像することと、エビデンスに基づいた政策を推進することは似通ったものがあります。また、ナラティブはコミュニケーションをとる上で必要不可欠なスキルであり、政策にエビデンスを統合させるために活用できると考えます。」(European Commission's Joint Research Center:David Mair氏)

Peter Gluckman氏Peter Gluckman氏 INGSA会長のPeter Gluckman氏の締めの言葉のもと、総会は閉会を迎えました。
「INGSA発足から4年、科学と政策の交差点に関して議論は深まっていくばかりです。今後の課題も多いですが、エビデンスを地球の持続可能性、人口、クオリティーオブライフの改善に活用することは特に重要であり、我々にとってはチャンスでもあります。」(Peter Gluckman氏)
次回、INGSAの総会は2020年11月にカナダ・モントリオールで行われる予定です。

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