創刊準備号特別寄稿 科学技術イノベーション政策コミュニティのグローバル・ネットワークの拡大と組織化

ありもとたて 政策研究大学院大学(GRIPS)教授・科学技術イノベーション政策プログラムディレクター
PROFILE
専門は、科学技術政策、研究開発ファンディング・システム。
科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)上席フェローを兼任。

 今年初めに開かれた世界経済フォーラム(ダボス会議)の主テーマは、「第4次産業革命」であった。世界中から集まった各国リーダーたちが、情報通信、人工知能、ロボットなど新技術を基に、猛烈なスピードとスケールで進む世界システムの根本的な変化への対応を巡って、政治、経済、雇用・貧困、科学技術、文化、宗教、市民生活などについて活発な議論を行った。ローマ法王からのメッセージも届けられた。OECDは昨年、組織を挙げて作成したイノベーション戦略“The Innovation Imperative”を公表した。これは新時代を迎えて各国が科学技術イノベーション政策を作成する際の重要なハンドブックになるだろう。UNESCO も昨年末、大鑑“UNESCO Science Report- Towards 2030”をまとめ、世界と各国の科学技術と政策の最新動向を示した。今年2月には、アメリカ科学振興協会(AAAS)の年次総会がワシントンで開催され、“Global Science Engagement”をテーマに、世界中から政・産・学・官・市民の科学技術関係者が集まった。世界の学術組織もICSUを中心に、地球環境の挑戦的国際プログラムFuture Earthなど、Global science commonsの構築に向けて動いており、若手研究者の世界ネットワーク(Global Young Academy)は3月に東京で科学技術の将来について議論する計画である。こうした潮流の中で、各国は野心的な科学技術政策を打ち出しており、各国首脳の科学技術顧問や研究助成機関のグローバル・ネットワークも活発な活動を進めている。

 これらに通底する時代認識は、“Open Science”,“Science 2.0”, “science in transition”,“Industry 4.0”に代表されるように、19世紀以来築かれて来た近代科学技術の価値観、行動規範、方法と仕組みの抜本的な点検と再設計である。

 ここ数年図に示すように、こうした議論が、国際機関、政府組織、ファンディング機関、大学、シンクタンク、非政府組織、大学・研究機関で共時的に進められている。科学技術政策論の必読書“Between Politics and Science”(by David H.Guston)と“The Honest Broker-Making Senseof Science in Policy and Politics”(by Roger A.Pielke,Jr.)が示唆するキーワード:科学・政治・政策・間・仲介者・科学の意味・意義を並べてみると、今多様な役割と機能をもった集団と個人が、分野、組織、国を超えてグローバルに繋がり、複雑化する地球規模課題やイノベーションの解決、新しい分野開拓と人材育成に向けて、高速で相互に作用している構造が俯瞰できる。

科学技術イノベーション政策の科学と科学的助言の地球規模ネットワークの拡大


※赤丸:最近活発に活動している組織

 SciREX Quarterlyは、政策担当者と研究者、学生、市民を結ぶ新しいメディアであり、分断されがちな多層的なレベル(政策決定・実施、ファンディング・シンクタンク、大学・研究所・企業等実施機関、個人研究者・学会・市民)の組織と人が連携して、科学技術政策の循環サイクル(data & evidenceanalysis-design-action-evaluation)を、内外にわたってダイナミックに回転させる“Honest Broker(良心的な媒介者)”の役割を果たすことを期待したい。