SciREX 拠点間連携プロジェクト4 イノベーション創出に向けた産学官連携:知識マネジメントと制度設計

 2016年度よりSciREX事業では、9つの重点課題を設け、9つの研究プロジェクトを実施しています。本号では、「イノベーション創出に向けた産学官連携:知識マネジメントと制度設計」に関する研究プロジェクトをご紹介します。

イノベーション創出のプラットフォームとしてのこれからの大学の役割と課題

図 将来的にサイエンス起点、データ起点型のイノベーションが社会に大きな影響を与えていくことが確実な中、大学がイノベーション創出の基盤として果たす役割はますます高まると考えられます。産業界や官公庁、市民と連携した科学・技術の研究がさらに増えることを考えると、大学は研究活動の場としてだけでなく、これからの産業の重要な資源と考えられているデータが集まる場所としても注目されていくことが予想されます。 しかし、データを大学に集約していくという動きには課題が残されています。大学が産業界や官公庁、市民といった目的の異なるセクターと協働することは、それぞれのセクターとの利害調整の負担や思わぬ弊害をもたらす可能性があるからです。

いま大学が直面している課題

いくつか弊害を具体的に見ていきましょう。大学と産業界が連携する中では、成果やデータをいつ公開するのか、成果やデータを誰が利用できるようにするのかについて考えが合致せず、そもそもの連携がうまく進まないことや、連携の成果が社会で生かされない結果を招く可能性があります。しかも、産業界とうまく連携ができたとしても、産業界の影響を受けて研究成果を歪めているのではないかという疑念や、特定の企業に利益を与えているのではないかとの疑念を社会に生じさせる可能性が出てきます。データを幅広く利用できるようにすることも、開かれた研究活動を実現するという効果的な側面があるのですが、データの取扱についてデータの提供元に不安を抱かせることになると、大学にデータが集まらなくなる可能性が出てきます。

異なるセクターとの連携の中で、大学の研究に対する社会的な信頼を損なう恐れがあることは避けられません。ですので、これらのリスク適切に管理する必要性が生じています。多くの大学が試行錯誤を繰り返しているところですが、特に社会からの受け止め方は状況に応じて変わってくることから、最適な解は見つかっていないのが実情です。 悩ましいのは、リスクを避けようとするほど、革新的な取組が難しくなってしまう点です。大学がイノベーション創出の基盤として社会の期待に応えるためには、最適なリスクのマネジメント体制が必要です。

課題解決に向けた学際アプローチ:公共政策学×リスクマネジメント論×経営学

このプロジェクトには、政策研究大学院大学、大阪大学、京都大学、九州大学が参画し、次の3つの学際的な視点で取り組んでいます。

  • 公共政策学の観点:大学の社会における位置づけに影響を与える国際的な事例を収集し、大学が社会に果たす役割を最大化するための制度・政策のあり方を検討しています
  • リスクマネジメント論の観点:産学共同研究及びオープンデータのリスクの種類とその影響、発生確率の可視化を目指しています
  • 経営学:セクター間の利害調整の成功要因・失敗要因をこれまでの研究蓄積に基づいて考察し、利害調整を円滑に行う組織体制・運用のあり方を検討しています

たとえば、平成28年度には京都大学と共同して医学分野を中心とした産学連携のマネジメント体制についてワークショップを開催し、大学として望ましい体制についての議論を深めました。

これまでの成果とこれからの取組

2015年度はフィージビリティ調査として、利益相反のマネジメントの状況について国内外の大学を調査し、何が主要なリスクであるかの洗い出しを行うとともに、オープンデータの実施に伴う課題の検討を行いました。また、併せて産学連携のマネジメント組織体制のあり方についても議論の整理を行いました。平成28年度はデータの取扱や位置づけについて海外の大学の動向を調査し、そのマネジメント体制についての示唆を得ました。今年度(2017年度)は、産学連携やデータ共有に対する市民からの受け止め方に影響を与える要因の定量的な把握等を行っています。

今後はリスクマネジメントの観点からだけでなく、グローバル化し、かつデータ起点型の社会となる中で大学がより社会からの期待に応えるためには何をするべきかなど、未来社会での大学の役割について検討を進めて行きます。

プロジェクトのコンタクト先:t-koba@tmi.t.u-tokyo.ac.jp(吉岡(小林))