SciREX 拠点間連携プロジェクト 3 地域イノベーションに資する事例研究と科学技術政策支援システムの開発
2016年度よりSciREX事業では、9つの重点課題を設け、9つの研究プロジェクトを実施しています。本号では、「地域における科学技術イノベーション政策」に関する研究プロジェクトをご紹介します。
地域イノベーションの実現に向けた知識共有の基盤構築
このプロジェクトでは、地域における科学技術イノベーション政策の立案・実行に資するため、地域イノベーションの事例情報を体系的に収集・分析しています。また、収集した事例情報を、九州大学の拠点が開発した「地域科学技術イノベーション政策支援システム(RESIDENS)」に登録・蓄積し、自治体が共有できるようにするとともに、自治体関係者を対象とした政策研修プログラムの中で活用することを目指しています。
なぜ、事例情報の蓄積・共有が重要なのか
我が国では1980年代以降、地域レベルでの多様な科学技術振興施策が推進されてきましたが、それらの施策に対する事業評価では、ネットワーク形成等に一定の効果が認められる一方、技術を事業化する主体が不在であることや、先端的な技術を活かせる市場が未開拓であること等が課題として残され、未だ政策目標とすべきアウトカムの達成に至っていないという厳しい指摘がなされてきました。こうした課題は、これまでの施策を通じて各地域に蓄積されてきたイノベーションへの取組みに関する経験的知識から深く学習することによって効果的に解決できるのではないかと、私たちは考えています。しかし、各地域で取り組まれた科学技術政策やイノベーションに関する詳細な事例情報を地域間で共有する仕組みは、長らく存在していませんでした。
プロジェクトの課題と解決のためのアプローチ
こうした問題意識に立ち、自治体等の間で事例情報を共有するための仕組みとして開発・提供したシステムがRESIDENSです。しかし、このシステムが実際に政策形成過程の中で活用され、定着していくためには、新たな課題に対応しなければなりません。1つは、質の高いケース・スタディを継続的に実施し、絶えず事例情報を更新することです。このため年度ごとに一橋大学の拠点では5件程度、九州大学の拠点では2件程度のケース・スタディを実施し、事例情報の更新に備えています。もう1つの課題は、地域科学技術政策に関する定型的な情報の更新が自治体の自主的な取組みに担われることを期して、システムのユーザー・コミュニティを形成することです。このため九州大学の拠点では、コミュニティのコアとなるユーザーの育成に向けて研修プログラムの運用を進めています。
これまでの成果と今後の展望
昨年度、九州大学の拠点ではRESIDENS検索システムの更新作業を、ユーザー・アンケートの結果等を踏まえて進めました。また、金沢で開催された産学官連携イベントなどの機会に、試行的な研修プログラムを実施しました。本年度は、データベースを更新するための大規模なベンチマーク調査を実施する予定です。
一橋大学の拠点では、福島県・土湯の地熱発電、夕張市におけるズリ活用事業などのケース・スタディをまとめました。また、昨年度末には「事例研究報告会」を開催し、進行中の案件を含むケース・スタディの成果を発表しました。今後は映像教材の作成も進め、ケース・スタディの成果は書籍化する予定です。
両拠点は本年度以降、作成したケースの活用などを図るため一層密接に連携していきます。また、自治体をはじめとする行政との連携も益々強化していきたいと考えています。
プロジェクトのコンタクト先:a-nagata@econ.kyushu-u.ac.jp
(文責:永田晃也、青島矢一)
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