データの読み方講座05 -大学発ベンチャー編 日本の「大学発ベンチャー」は何社あるか

新村和久
しんむらかずひさ 文部科学省科学技術・学術政策研究所第2調査研究グループ上席研究官
PROFILE
専門分野は知的財産権、産学連携。民間企業でのバイオ医薬品研究開発、研究機関での知財戦略担当を経て2014年より現職。弁理士・薬剤師。

本講座では、科学技術イノベーション政策を考える基礎として、重要テーマごとに、どのようなデータがあるか、そのデータから何が言えるのか、どのような限界があるのかについて、専門家が解説する。第5回目は、「大学発ベンチャー」のデータを取り上げる。

 現在、我が国においては、新規事業の創出に挑戦する研究開発型ベンチャーの設立、および育成促進による経済成長の加速への期待が高まっている[1]。 まず、ここで用いられるベンチャーという用語であるが、よく目にするため概念としては感覚的に理解できるものとして広く普及していると考えるが、関連資料を読み解く上では用語の定義について正しく理解する必要がある。特に、諸外国との比較を行う場合には比較する双方がどのような定義を用いているかを意識しなければ間違った解釈に繋がる可能性がある。 そこで、本講座ではベンチャーの用語の定義を踏まえつつ、第5期科学技術基本計画で言及されている「新規事業の創出に挑戦する研究開発型ベンチャー」を補足するための取り組みについて言及する。

ベンチャー企業の定義とは?

 まず中小企業とベンチャー企業の関係であるが、中小企業の定義上はベンチャー企業を包含する。これは、日本における中小企業とは、中小企業基本法による分類・定義が一般的であり、資本金・従業員規模・業種分類によって定義されるためである。しかし、ベンチャー企業は、現在では中小企業との違いが強調されることが多い。 この経緯としては、1970年に清成忠男、中村秀一郎らにより、知的な、知識集約的なイノベーターとしての中小企業、中小企業といってもスタートしたばかりの小さな企業を「ベンチャービジネス」として定義付けられたことが発端となる[2]。 こうして区分した理由には、ベンチャー企業は、企業としての戦略やマネジメントが中小企業とは異なり、その特性や求められる支援施策が異なる[3][4]ことなどがある。

 こうした理由から、企業規模でのみ分類する中小企業の定義では包含されるベンチャー企業であるが、異なる特性を有することから中小企業とベンチャー企業が区別されていることが多い。

 なお、アメリカで用いられるスタートアップにも様々な定義がある。例えば、歴史的にはアメリカでもスタートアップはスモールビジネス として扱われてきたが、Steve Blankにより、スタートアップは再現性のあるスケーラブルなビジネスモデルを探索するための一時的な組織として、スモールビジネスとの違いを強調された[5][6]。Alex Wilhelmは成長した企業がまだスタートアップか否かについて、売り上げや従業員数などの数値による定義を提唱している[7]。Paul Graham はStartup = Growthとして、スタートアップは成長を維持する企業か否かであると言及している[8]

政策の中での研究開発型ベンチャーの位置づけ

 上記ベンチャービジネスを語源とするベンチャー企業の定義に鑑みると、新規事業に挑戦する研究開発型ベンチャーとは、ベンチャー企業と実質的に同一と考えられるが、第5期科学技術基本計画の策定過程における議論[9]の中では、今後の研究開発型ベンチャーの新規事業はサイエンス性が非常に高いことから、研究開発型ベンチャーは大学等(大学、公的研究機関)のシーズを起点としたものが主であると言及されており、明確化するために研究開発型の用語が用いられていると考えられる。すなわち政策的には研究開発型の大学等発ベンチャーを補足し、成長性を評価していくことが極めて重要となる。

 まず、大学等発ベンチャーとの違いであるが、上述のようにベンチャーの用語に鑑みれば同義である。ただし、過去のデータを紐解くと、必ずしも同一として認識してよいとは言い切れない。

 大学等発ベンチャーについての期待は、以前からも存在しており、その経緯を振り返ると、1998年の「大学等技術移転促進法」、および1999 年の日本版バイ=ドール条項を含む「産業活力再生特別措置法」など、大学の技術を移転する為の制度制定や、国公立大学教員等の兼業規則の一部緩和など、大学等発ベンチャーが創出される環境の整備が整えられてきた。更に、2001年に大学発ベンチャー1,000社計画が打ち出されて以降、大学等発ベンチャーの累積設立数は急速に増加し、設立数の政策目標を達成するまでに至った。

 しかし、現在では一部のマザーズ上場による時価総額の上位に大学等発ベンチャーが複数占められており、一部の企業は近年大きく成長を遂げている一方、大学等発ベンチャーの設立数の累積と成長企業の増加についての連動性は観測されていない[10]
この要因の一つとして、現在の国内大学等発ベンチャーの定義(図表1)は、大学等との関連性があれば大学等発ベンチャーとして捉える為、イノベーションの担い手としての活躍が期待される大学等発ベンチャー以外の、研究開発を伴わない大学等発企業が含まれていることに起因すると考える。


※各大学等がそれぞれの基準で認定している大学等発ベンチャーとは必ずしも一致しない点に留意が必要
出典:文部科学省 科学技術・学術政策研究所 研究開発型大学等発ベンチャー調査2016
図表1 大学等発ベンチャー集計結果を公表している組織の定義

米国の大学等発ベンチャー/我が国の大学等発ベンチャー

 また、アメリカでの大学等発ベンチャーの定義は、広く分析に活用されているAUTM(Association of University Technology Managers)の定義である技術移転機関(TLO)等により大学からライセンスを受けて設立された企業であり、日本の定義よりも狭義に大学の研究成果の実用化という観点から捉えており、正確な日米比較が出来ない状況にある。つまり、それぞれの定義で集計された日米の大学発ベンチャーの定量的な比較を行う場合には、日本は大学の技術に基づいた技術系以外のベンチャーを含むことによる影響を受けるため、既存の定量的な分析結果においては、結論のみに注目するのではなく、用いたデータの出所とデータの限界性の言及にも留意する必要がある。

 これを踏まえ、当研究所では、前述のベンチャー企業の定性的な定義においては画一的な分類が困難であることから、研究開発を行っている企業は少なくとも設立後に特許出願を行うであろうと推定し、研究開発型大学等発ベンチャーを、『ベンチャー設立後特許出願を行っている大学等発ベンチャー』と狭義に定義し、その抽出を行うとともに、実態の把握や関連機関、研究者も含めた成長要因の試行的分析を行っている[11][12]

 ただし、この定義においてもアメリカでのAUTMの定義とは完全一致しない点に留意が必要であるが、大学等の知的資産を実用化するために設立された企業を対照する点で類似性が高いと考えられ、既存の広い日本の定義に比べて、日米の大学等発ベンチャー比較を行なう上での定義差を狭めるものと考える。

 加えて、技術系の大学発ベンチャーといえど一括りの均一な集団ではなく、分野によって1製品・サービスの研究開発期間、製品ライフサイクルの長短や、初期設備投資費用の大小などの特性の違いがあるため、特許出願を指標とすることで、付与された国際特許分類により企業の分野で細分化可能なメリットがある。
補足であるが、現在では特許出願を行っていない研究開発型ベンチャー(大学発以外も含む)も捕捉可能なデータベース化に取り組んでいる。

 なお、各々の定義による集計であるが、現在利用可能な大学発ベンチャーのデータベースとしては、アメリカではAUTMのSTATT Database、株式会社ジャパンベンチャーリサーチのアントレペディアがある。大学発ベンチャーに限らず特定企業情報を検索するのであれば、CrunchBase、D&B Hoovers、SPEEDA、TDB企業サーチ、tsr-van2、Cotobe(インターネット業界のスタートアップ限定)などがある。

データの解釈について

 本講座のベンチャー企業に限らないが、データを解釈する上で、そのデータがどのような定義に基づき作成されたかを把握することが肝要となる。
加えて、データの解釈としては相関と因果についても留意が必要となる。1例として、既存の研究により、大学発ベンチャーではないが、カリフォルニア州で創業したスタートアップ企業160万社を企業の名称、商標、立地、特許権などを指標に定量的に分析した結果、特許権を取得した企業の方が、企業の成長確率が25倍高いことが報告されている[13]。この結果は、成長した企業と特許出願の相関性を示しているものであり、特許権を取得することがスタートアップの成長に繋がるということを示しているわけではない。

 これらを踏まえた上で、本講座でいえば、自らが認識するベンチャー企業(またはスタートアップ)の定義に基づいて収集されたデータなのか、そのデータに基づいて作成された資料なのかを正確に把握し、ベンチャーにおける成長とは何なのか(例えば特許権を取得すること、黒字であることが良いことなのか、など)、諸外国との比較、などを考察することが重要となる。

参考文献

  1. [1]第5期科学技術基本計画 閣議決定 (2016)
  2. [2]原田, ベンチャー論と21世紀の起業家社会, 長岡大学研究論叢,6 (2008)
  3. [3]植田・桑原・本多・義永・関・田中・林, 中小企業・ベンチャー企業論[新版], 有斐閣 (2014)
  4. [4]新村, 中小・大学発ベンチャー企業のHorizon(前編)-産学連携を活用した中小・ベンチャー企業のイノベーション-, 科学技術・学術政策研究所 (2017)
  5. [5]STARTUP DEFINITION – EVERYTHING ABOUT STARTUPS, Renderforest (2017)
  6. [6]スティーブン・Gブランク, ボブ・ドーフ, (訳)堤・飯野, スタートアップ・マニュアル ベンチャー創業から大企業の新事業立ち上げまで, 翔泳社 (2012)
  7. [7]Alyson Shontell, This Is The Definitive Definition Of A Startup, BUSINESS INSIDER (2014)
  8. [8]Paul Graham, Startup = Growth, http://www.paulgraham.com/ (2012)
  9. [9]総合科学技術・イノベーション会議, 第15回基本計画専門調査会 議事録( 2015)
  10. [10]新村, 研究開発型大学等発ベンチャーデータベースの構築と活用, 第1回科学技術イノベーション政策のための科学 オープンフォーラム (2017)
  11. [11]新村・犬塚, 研究開発型大学等発ベンチャー調査2016, 科学技術・学術政策研究所 (2016)
  12. [12]新村, 地方創生のHorizon (前編) 地方創生と起業環境-大学発ベンチャーデータを用いた鶴岡における地域イノベーション進展過程の分析-, 科学技術・学術政策研究所 (2016)
  13. [13]Jorge Guzman and Scott Stern, Where is Silicon Valley?, Science 347, 606 (2015)
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