ノーベル賞受賞記念 特別レポート データから観るノーベル賞 -大隅良典教授ノーベル生理学・医学賞受賞に寄せて-
2016年10月3日、東京工業大学・大隅良典(おおすみ よしのり)栄誉教授が今年度のノーベル生理学・医学賞を受賞しました。ここでは、大隅教授がどのようにしてノーベル賞の受賞に至るまでの研究を行ったのか、特許や論文、競争的資金のデータから辿ってみたいと思います。
1.大隅教授による年ごとの論文数
大隅教授による年次論文公刊数推移
データの抽出方法: AU-ID (“ Ohsumi, Yoshinori” 7004564486 )について抽出
出所: Scopus データベースに基づき SciREXセンター原作成
論文データベース (Scopus) を用いて、大隅教授の年ごとの論文数をグラフにしました。
こちらをみると、1996年に岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所に教授として移られたあと、年あたりの論文公刊数が増加していることがわかります。その後、大隅教授は2009年に、東京工業大学 統合研究院フロンティア研究機構特任教授に着任されました。その後も、研究のペースを継続されていたことがわかります。
2.Autophagy に関する論文の推移
大隅教授のノーベル賞受賞理由である、オートファジー(autophagy) 分野の論文数推移について、年ごとおよび国別の論文公刊数をプロットしました。2000年初頭以降、論文の公刊数が急増していることが確認できます。
3.受賞に至る主要論文の被引用数推移
大隅教授によるオートファジーのメカニズム解明に係る学術論文を特定し、それらの被引用数推移について調査しました。このため、以下の手順で該当する論文の特定を行いました。
1. NobelPrize Web 上に掲載されている Scientific Background Discoveries of Mechanisms for Autophagy を参照する。
2. 文中の記載から、以下の文献を特定。これらの論文の前方引用数について年ごとの被引用数を並べました。
2-1. Takeshige, K., Baba, M., Tsuboi, S., Noda, T., and Ohsumi, Y. (1992) Autophagy in yeast demonstrated with proteinase-deficient mutants and conditions for its induction. J Cell Biol 119, 301‒311.
2-2. Tsukada, M., and Ohsumi, Y. (1993) Isolation and characterization of autophagy-defective mutants of Saccharomyces cerevisiae. FEBS Lett 333, 169‒174.
主要論文の被引用数推移
主要論文数の被引用数の推移を観ると、オートファジー分野の論文数増加と比例しています。通常、論文の被引用数は発表後直近の2~3年がピークで、あとは徐々に減少していきます。しかし、これらの論文の場合オートファジーが注目され、論文数が急増した2000年以降、より被引用数が増加しています。
このグラフからは、大隅教授のオートファジーに関する研究が先駆的だったこと、また、先駆的な研究成果として、論文の発表から10年以上たっても継続して引用され続ける、重要度の高い研究であることが読み取れます。
4.特許の出願状況
大隅教授は二件、特許を出願されています(特許情報プラットフォーム調べ)。ひとつは、1998年8月に出願した「オートファジーに必須なAPG12遺伝子、その検出法、その遺伝子配列に基づくリコンビナント蛋白の作製法、それに対する抗体の作製法、それに対する抗体を用いたApg12蛋白の検出法 (特開2000-60574)」で、株式会社エルティーティ研究所が出願人として明記されています。もうひとつは、2001年5月に出願した「蛋白質とホスファチジルエタノールアミンの結合体(特開2002-348298)」で、出願人として科学技術振興事業団が明記されています。
5.科研費の取得状況
出所: 科学研究費助成事業データベースをもとに SciREX センター原が作成/総配分額を年度ごとに等価に按分し表示
最後に、大隅教授による科研費の取得額の推移をグラフにしてみました。1998年以降科研費の総配分額が増大していることが確認できました。また、研究設備やメンバーの確保などの点でこれらの科研費が活用された結果、1996年以降の研究内容のさらなる充実に繋がったことが推測できると思います。
さて、大隅教授に関するこれらのデータからは、ひと(研究者)ともの(設備や環境)とお金(競争的資金) が結びついた結果、ノーベル賞受賞に至るような素晴らしい成果を生み出されたことが、なんとなく見えてきたのかなと思います。
では、どうすれば、こうした優れた研究者に頑張ってもらえる研究環境を作れるのでしょうか? そもそも、優れた若い研究者をどうやって見つけ出せばよいのでしょうか? SciREX では、こうした分析をいろいろと進めています。今後もご期待ください。
※本稿は、SciREX「政策のための科学」ポータルサイトに掲載した「2016年ノーベル生理学・医学賞大隅良典栄誉教授の論文・特許および資金調達に係る予備的分析を実施しました(2016/10/5)」を本誌用に再編集したものです。
- PROFILE
- 民間IT企業で勤務後、日本学術振興会特別研究員DC1、一橋大学イノベーション研究センター特任助手を経て、2015年より現職。
主な研究テーマは技術開発の社会構築過程の分析、ナショナルイノベーションシステムの国際比較など。
※大隅教授の受賞に至るまでの経緯については、NISTEP によるSTI Holizon 誌「特別対談 ノーベル賞研究の背景『組織、研究費、人的支援から考えるノーベル賞の条件』」 (2016年12月発行予定) にも掲載される予定です。