創刊準備号特別寄稿 21世紀における「科学技術イノベーションの科学」を求めて 実証「科学技術政策の科学」とその政策の実践

くろまさひろ 科学技術イノベーション政策における「政策のための科学」推進委員会主査
PROFILE
専門は、計量経済学・経済政策論。政策研究大学院大学(GRIPS)客員教授、慶應義塾大学名誉教授、科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)上席フェローを兼任。

 「何のために、そしてどこで“科学技術の進歩”が必要か?」、「その科学技術の進歩をより効率的に使うには、どのような政策が望ましいか?」といった問いを探し求める“Policy for Science”側の実践的政策ニーズと「科学技術の進歩がどこで必要かを科学的に検証」し、「その科学技術進歩の目標を効果的に実現するための政策とその評価の科学的な可視化」を求めた“Science for Science & Technology Policy”の科学者側のシーズとが、共に進化して発展することで、より実効性のある政策立案を目指していくべきである。

 このような問題意識の下始まった「科学技術イノベーション政策における『政策のための科学』(SciREX: Science for RE-designing Science, Technology and Innovation Policy)」事業は、2015年で5年余が経過した。これまでに以下の4つの基本姿勢に基づき、数々の事業が展開されてきた。

  1. 客観的根拠(エビデンス)に基づく政策の立案とその評価および検証結果の政策改善への反映
  2. 政策の前提条件を評価し、それを政策立案に反映させるプロセスの確立
  3. 真理の探究による好奇心の充足にのみではなく、社会が直面している課題の解決に取り組むという科学研究者の責任と姿勢の醸成
  4. 科学技術への国民の理解と科学者への信頼の確立

この政策担当者と研究者との共進化への想いは、この5年間で着実に蓄積されつつあり、「科学技術政策を科学的に」という堅い意志を持つ政策担当者と研究者の層は、着実に拡大していると感じている。

 一方で、21世紀に入ってからの科学の発展を目の当たりにして、われわれの自然観や科学観、そして人間の尊厳を支える価値観に、大きな変換が生じていると感じている人は少なくないと思う。そのような中、人間社会の新しい倫理体系の構築のために、自然科学、人文・社会科学を含む学問分野の 連携による智の再構築の必要性が叫ばれている。18 ~ 20世紀に科学革命をへて確立されてきた自然科学における帰納と演繹という科学論理が、人文・社会科学の分野でも用いられることで、両者の更なる深化が求められている。また、情報の科学や智の構造化の進展が、あらゆる科学分野での観測・実験の方法、計測の精度の向上と智の蓄積に結び付いて、人類の智の再構成の可能性を確実に拡大しつつある。そして情報技術の実社会への導入が、科学の体系化を上回るスピードで急速に進んでいるために、新しい人類の価値観を求める科学の進化と旧体制の価値観との間で葛藤を生み出している。そうした状況の中、「科学技術イノベーションの科学」の確立が、21世紀社会を人類の持続可能な発展に導く新しい公智を実現する指針を与えるものとなることを確信してやまない。