マンチェスター大学科学技術イノベーション政策研修コース参加報告

2015.12.1 [Tue]

2015年11月16日から11月20日まで、マンチェスター大学イノベーション研究センター (Manchester Institute of Innovation Research) およびマンチェスター大学ビジネススクール (Manchester Business School, University of Manchester) の共同で開催された科学技術イノベーション政策研修コース (Executive Short Course on Science, Technology and Innovation Policy) に参加しました。今回はこのコースの参加報告をしたいと思います(文責: GRIPS SciREX センター 原泰史)。

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コースの概要

このコースの目的は、科学技術イノベーション政策に係る今日の研究トピックや分析手法などをSTI に携わる政策立案者や研究者が学習することにあります。

今年の主なトピックは、

  • Introduction to a historically based framework of the different dimensions of STIP policies and the development of the ‘tool box’ of policy instruments
  • The explosion of demand-based policies. Concepts, Instruments and Impacts
  • Impacts of Research
  • Capacity building from THE University to universities
  • Regional STI policies
  • “Big Science – all research?” Investment in infrastructures for Research

などでした。

コースについては、後述しますが受講生からのフィードバックをもとに毎年見直しを行っているそうです。
また、このコースの興味深い点のひとつとして、日本の科学技術イノベーション政策に関する研究領域や関心と、今回マンチェスター大で受講した内容には、いくつかの違いがあることを指摘できると思います。

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日本の科学技術イノベーション政策というと、連想するのは供給側の視点にたった技術の革新や、そうした技術の普及を促進するためのファンディングスキームの在り方の議論が多いように思えます。あるいは、科学技術投資が国家経済に与える影響や、特定の産業や地域に与える影響を測定する、マクロあるいはミクロ経済学的な分析に携わる研究者も多い印象があります。また、科学技術コミュニケーションに着目した研究も行われています。

今回マンチェスター大で受講した講義内容の特徴的な点として、

  • 経営学的なケース分析メソッドや、歴史学的な分析を科学技術イノベーション政策の研究手法のひとつとして用いていたこと
  • 科学技術およびイノベーションに着目する上で、それらの供給側 (supply side) のみならず、需要側 (demand side) に着目した研究が進められていること
  • ファンディングを行った研究開発プログラムの評価を行う際、論文や特許の出願数や公刊数をカウントするだけではなく、それが社会的に与えた影響を測定できるようなスキームを導入し評価を行おうとしていること
  • 科学技術およびイノベーションを生み出す知識の源泉としての大学の役割を再定義し、社会との関係性にもとづいて組織の見直しを行う必要があることを強調すること
  • 近年インフラストラクチャ投資型の研究を行ううえでは、国際的な研究コラボレーションを行うため、国際的な協調空間を整備することが必要不可欠であること、また、社会的な利益や政治的なディスコースにも着目する必要があること

などが挙げられます。

コースの一番最初に、科学技術イノベーション政策の歴史的分析に関する講義が行われたことも、導入として最適だったように感じます。さすが、産業革命の発祥の地だなと思いました。
2年に一度アトランタ・ジョージア工科大で行われている Atlanta Conference で主にアメリカの研究者が発表した科学技術イノベーションに係る研究に比べて、より定性的な分析の色彩が強いように感じました。

コースの参加者

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コースの正式な参加者は全部で20名。この他に、マンチェスター大で勉強をしているマスターやドクター、研究生も適宜オブザーバーとして参加していました。
興味深く感じたのは20名のうち、アジア系が約3分の2を占めていたことです。マレーシアのMinistry of Science, Technology and Innovation(MOSTI; Malaysia)から4名、韓国からは Korea Institute of S&T Evaluation and Planning(KISTEP)から3名と、Nipaの研究チームから1名の計4名、中国からも大学所属の研究者が3名参加していました。他には、トルコ、ノルウェー、イングランド、メキシコ等からも受講者として参加していました。アメリカからの参加者はいませんでした。肩書を観る限り、研究者と政策立案者が半数ずつ、といった構成でした。

コースの運営方法

マンチェスター大の講師が登壇し、講義形式で授業は進められていきました。
コーディネーターは講義には同席せず、また、ファシリテーターも存在しませんでした。
講義は講師が主導して進めていきますが、その手法やスタイルは講師に一任されていました。

講義は朝の9時からスタートし、ランチまでコーヒー休憩をはさみながら3時間続きます。
ランチを1時間採り、その間に後述するグループディスカッションをしながら、午後も3時間講義でした。
日の出が8時くらい、日の入りが17時くらいだったので、お日様が見える時間はほとんど講義でした。
これが4日間続きました。

強烈だったのは、水曜日の朝に大学の評価指標の話をされた Maria Nedeva 先生でした。
開口一番、「私のことを知っているひとはいる?五分間質問の時間にする!」、「え?アタシのことを知らないの?今日日ググったらどういう研究しているひとかすぐにわかるじゃない!」などと、積極的にアイスブレイキングしてくれた(?)おかげで楽しく講義を受けることができました。

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講義のレベルは、通常の国際学会発表やMBAコースと殆ど同じだったように思います。行政官向けといって、特に手を抜いている印象はありませんでした。
ただし、ヨーロッパの大学がよく開催している Summer School ですと、事前に Literature Review を配布し、参加者に事前に目を通したりディスカッションポイントをまとめてから参加することを求めるのですが、今回は事前配布の資料はほとんどなく、あっても前日にパワーポイントのハンドアウトが配布される程度でした。この点で、より間口のひろい受講者を意識しているのかもしれません。

日本のこうしたコースと違う点としては、ディスカッションが極めて自然に取り入れられている点でしょうか。自分自身も講義や学会発表をしているので痛感するのですが、日本の大学などでディスカッションの時間を設けても、ただの講義内容の確認タイムや、自分のご意見を開陳される演説タイムになってしまうことが多々有ります。

今回のコースの場合、どういったタイミングで、どういう内容でディスカッションを行うかは講師に一任されていました。
たとえば、座学方式の講義を行って、最後にディスカッションの時間を設ける講師もいれば、ディスカッションを適宜はさみながら講義を進める講師もいました。

その他にも、MBAのように用意されたケース分析を使って学生同士にディスカッションさせる講義や、実際のファンドによる研究成果報告書を使って、研究成果の社会的成果をどのように評価すべきか受講者同士でディスカッションさせる講義もありました。

グループ課題

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コースのもうひとつの特徴として、グループ課題および発表がコース全体を通じた課題として設定されていることが挙げられると思います。
グループ課題として、グループメンバーが所属する国から特定の国ひとつを取り上げ、「その国の科学技術イノベーション政策の特徴」、「科学技術イノベーション政策における問題点や課題」、「改善に向けた取り組みや施策」などを最終日にプレゼン発表することが求められました。この課題は初日の午後に与えられ、グループ分けが行われました。

グループ分けは、講師によりアトランダムに決められました。僕が所属したグループは、イングランド、ノルウェー、マレーシア、日本と、バックグラウンドが違うメンバー4人から構成されていました。
また、発表に向けたディスカッションや資料の作成は講義の合間やランチの時間に、自主的に進めることになっていました。

グループメンバー内でのディスカッションの際、「あんまり日本の科学技術イノベーション政策って楽しくないですよ。行政の縦割りがあるし、ファンディングスキームも複雑ですし」という話をしていたところ、何故かその点が関心を持っていただけたらしく、最終日の発表を担当することになりました。

発表は金曜日の午前中に設定されていたので、以下のような資料を用意して発表することになりました。うまくコンテキストに載せられそうだったので、日本の「政策のための科学」も紹介してみました。
(刺激的なタイトルをつけていますが、このタイトルはマンチェスター出身のロックバンド『オアシス』の曲名から拝借しています。プレゼンの「ツカミ」としてはうまく機能してくれました)

発表に対しては、講師の皆さんからはいろいろとコメントや、提案などを頂くことが出来ました。
きちんと、 critical review なコメントが届くあたりは、学会発表と同じ感じであるなあと思いました。

また、受講者のみなさんからの反応はなかなか良かったです。
コースの間となりの席に座っていた韓国KISTEP のリサーチャーの方は日本の科学技術政策分析を担当しているそうで、ポジティブなコメントをもらえてラッキーでした。


発表終了後は、コースの改善点などについてディスカッションする機会がありました。
前日木曜日に以下の様な質問票が配られ、最終日に提出することになっていました。
コース全体の満足度や講義方法についてフィードバックを積極的に受講者から得るようにしているそうです。
こうした参加者からの意見を元に、毎年内容を少しずつ改善しているとのこと。

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こうして、5日間のコースが終わりました。

まとめ

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アジア系が多かったせいか、非常にたのしく5日間のコースを受けることができました。

気づいた点や、面白かった点、それから、日本の場合こういうことが出来るのでは?というのを箇条書きでまとめたいと思います。

  • どうやら別の研修コースが設定されているらしく、少ししか触れられていなかったのですが、マンチェスター大では特許や論文を使った科学技術イノベーションの分析を行うために、90名のスタッフのうち10名程度エンジニアやプログラマーを雇用しているそうです。分析の手法やアルゴリズムの構築はエンジニアに一任して、研究者側はアウトプットのみを要求する仕組みで研究を進めているとのこと。開発と実装が密に、かつそれぞれの Divisional of Labor を意識して行動するあたりはIT業界で数年前に流行った DevOps の考え方に近いように思えました。
  • STI政策に係る課題は各国で共通する点が多数あることを再確認できました。たとえば、イノベーションを供給する側への視点の偏りや、縦割り行政の弊害などは、韓国やマレーシアでも同様に起きている問題とのことでした。「研究成果を論文や特許の数でカウントするなんて、ホント変だよねー」という話をしたら、「いやー、ウチもそうなんですよ。」という答えが帰って来たのが興味深かったです。
  • KISTEP の方に講義中、「なんか、これって von Hippel の User Innovation っぽい話だよねー」っていうと、「そうだねー。」という返事がすぐにありました。『共進化』という言葉を近年の SciREX では使っていますが、学者側が行政側のニーズを知ることと同じくらい、政策立案者側が学術的なバックグランドを備えることも、同じくらい必要だよなあ。と再認識した瞬間でした。
  • マンチェスター大のこのコースを下敷きや参考にして、日本でもアジアや日本の行政官を対象とした科学技術イノベーション政策をティーチングする集中コースを設計できればいいなと思いました。もちろん、国によってイノベーションシステムは違うのですが、一方、ある程度共通する問題もありますし、研究の方法論はあまり変わらないように思えました。何より、他の国の様子を知ることで、自分の国に持ち帰り参考にできる部分は多々あるのかなと思います。

その他

イギリスの料理はおいしくない!と散々聞かされましたが、ブレイクファストやディナーも含めなかなかでした。
ただし、マーマイトだけはどうしても受け付けませんでした・・・

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マンチェスターはコース期間中ほとんど曇りでしたが、時折晴れて、こんな素敵な虹を見せてくれたこともありました。

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スーパーマーケットではお寿司が売っていました(4.5£)。
感想は、、、ネタは思ったより良かったですが、ご飯はただ固めて潰してある感じでした。

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