IoT/CPS に係る科学技術の社会的・経済的影響評価を行う多部門相互依存一般均衡モデルの開発をJST CRDS と共同で実施しました

2015.8.31 [Mon]

GRIPS SciREX センター政策分析・影響評価領域では科学技術推進機構研究開発戦略センター (JST/CRDS) , 三菱総合研究所 (MRI) と共同で「政策のための科学におけるICT分野政策オプションの調査研究」を実施しました。

以下に、調査結果の速報版をご報告します。
本報告の詳細については, 2015年9月に GRIPS SciREX センターワーキングペーパーとして公開予定です。また、10月10日および11日に上智大学にて行われます、日本経済学会2015年度秋季大会でも「ICT/IoT に係る科学技術政策の社会的・経済的影響の評価を目的とした多部門相互依存一般均衡モデルの構築」と題し報告予定です。

(エクセクティブサマリー)

本研究は、各種の科学技術イノベーション政策の社会的・経済的な効果・影響を定量的に評価するために必要なモデルを開発して、政策オプション(政策の達成目標およびその達成目標実現のための政策手段および、これらの社会的・経済的影響の評価を列記したもの)を作成することを目的としています。

科学技術政策の影響評価モデル作成のために開発された産業連関表を用いることにより、産業の投入・産出の構造と知識資本の形成についてフローおよびストックの構造の両面を陽表的に取り入れた多部門経済一般均衡的相互依存モデルを構築しました。分析対象の一例としては、平成25年度に実施した「糖尿病の予知・予防技術の開発による健康長寿社会の実現」の政策評価モデルが挙げられます。当該モデルの検討成果を踏まえ、本研究では情報科学技術(ICT)に係わる政策の評価を行うためのモデル開発を行いました。

近年、IoT(Internet of Thing)やCPS(Cyber Physical Systems)が世界的に重要なICT 研究開発領域として着目されており、それらはネットワーク技術やセンサー技術などの複数の要素技術に細分化することができます。本研究では JST/CRDS が行った調査研究を踏まえ、既存の産業連関表に対して「ICT部門の研究開発投資構造の詳細化」「企業内情報処理部門の設定」等の改変を行い、これを用いて推計を行いました。

iot

モデル開発にあたっては、通常の生産部門のアクティビティを①主生産活動部門、②企業内情報処理部門、③企業内R&D活動部門に細分化しました。また、産業としての情報機器関連部門、情報サービス提供部門等を特掲しました。さらに研究開発部門として、政府R&D活動部門および産業R&D活動部門をそれぞれR&Dの目的分類に対応して設定しました。その結果、本モデルは合計93部門により構成されています。

また、本モデルは逐次的動学モデルであり、各生産部門において、期首には就業労働者数(man)、有形固定資本としての資本ストック量は、前期に選択された技術条件に基づいて、先決されていることを前提とします。その選択は、前期中に行われると仮定しており、当期においては、その前提のもとで、設備の稼働時間が変動することで各部門の財・サービスの需給均衡が達成されると仮定します。

以上の設定および仮定により、要素技術開発がもたらす情報技術分野における機能の進歩・変化を把握し、その機能変化による経済的・社会的影響を動学的な発展のプロセスとして分析することが可能となりまました。また、政府のR&D 投資により開発される技術とそれが与える影響 (生産量, 雇用者数, 全要素生産性, 知識ストック)の可視化および定量化, IoT 関連技術が与える経済的影響を産業部門ごとに推計することが可能となりました。

model

モデルを構築した後、ICT政策が及ぼす経済的影響についてシミュレーションを行いました。「政策無し」「政策有り」それぞれのケースについてモデルを2005~2050年まで実行しアウトプットを求めました。シミュレーションにあたっては、政府の情報通信R&D投資によりIoT/CPS技術が進歩した結果実現されるサービスとして、

  • a. 状態・状況のリアルタイム把握および分析(個別プロセス単位)
  • b. 知見・ノウハウのデータベース化、およびそれに基づく制御(個別プロセス単位)
  • c. プロセス横断型での最適化

の3パターンを考えます。これらのうち、どのサービスが実現するのかについて下記の3つの政策オプション (政策の達成目標および、達成目標実現のための政策手段、およびそれらによる社会的・経済的影響の評価がワンセットになったもの) を設定し、それぞれの場合における経済効果を比較しました。

  • 政策オプション①:aのみが実現
  • 政策オプション②:aおよびbが実現
  • 政策オプション③:a、bおよびcのすべてが実現

また、マーケティングから保守に至るまでの各生産プロセスに対して別々に、IoTの各機能が関与する程度を表す技術効率指数を設定しました。この技術効率指数を本研究ではP-Indexと呼称しています。本研究では試行的に、P-Indexの変化が各生産プロセスと短期・長期の技術効率性変化に直接反映されると仮定して、シミュレーションを行いました。なお、政策オプション別のP-indexの変化率および, 政策オプションごとの投資額について具体的に設定した値は以下の図の通りです。

p-index2

政策オプションごとの経済的効果を比較したところ、IoT/CPS に係る政策を実施しない場合に比べ、政策オプション1では最大で0.1%, 政策オプション2 では最大で0.6%, 政策オプション3では最大で0.9%GDPが上昇することがわかりました。また、政策により IoT/CPS に係る技術の社会的な浸透が先んじて行われた結果, GDP がより底上げされること, 個別技術単位ではなく, プラットフォーム型/プロセス横断型の最適化技術導入を支援することで, よし大きな経済効果を得ることができることが示唆されました.

gdp
options

シミュレーションの結果を、経済効果の発生の流れがわかるようロジックチャート形式で表すと以下の図のようになります。ほとんどの指標の変動幅(変化率の絶対値)が、政策オプション①から政策オプション③の順で大きくなることが確認できます。個別プロセス単位の最適化(a、b)だけでなく、プロセス横断型での最適化(c)を行うことで、より大きな経済効果を得ることができることが産業レベルでの解析からも示唆されました。なお、この分析は、各政策パターンによる経済的影響の大きさを相対比較することに主眼があり、絶対額の分析結果は参考値としての取り扱いとして解釈するべきと考えられます。

logicchart2

本モデルより、以下のようなことが考察されます。

  • IoTなどのICT分野の技術進歩により、製造業(主生産部門)の雇用は減少し、サービス業の雇用は増加します。短期では失業が生まれるものの、長期では産業構造が変化し、サービス業が雇用の受け皿の役割を果たすこととなると考えられます。
  • 財・サービス価格の変化を考慮した実質の賃金変化率は、いずれの政策オプションでも全ての生産部門で正の値となります。このことは、ICT分野の進歩は、製造業やサービス業といった違いに関わらず、多くの産業の賃金を実質的に向上させるといえます。
  • 製造業については、効率性改善によって、価格の低下や労働時間の減少が生じますが、実質の賃金率および可処分所得は増加し、消費などの最終需要は拡大、需給均衡の生産量は増加します。また、製造業では、資本ストック形成のための固定資本形成に係る投資財需要も高まります。

IoTの進歩により、情報関連産業、サービス業や企業内研究部門に携わる人材の需要は高まり、人材の育成のための高度な情報専門人材教育の必要性が増すと考えられます。