今年度科学技術白書でSciREX センターの研究成果が活用されました

2016.5.20 [Fri]

今年度の科学技術白書「特集」にて、当センターが実施したノーベル物理学賞、化学賞および生理学賞医学賞を受賞した科学者に係る研究調査成果が活用されています。詳細については SciREXワーキングペーパー 『ノーベル賞と科学技術イノベーション政策 -選考プロセスと受賞者のキャリア分析』 (著者: 赤池伸一, 原泰史他) として、2016年5月公開予定です。

また、白書の本特集に関連して以下の記事が公開されています。

「ノーベル賞、45歳までの業績が大半」 科学技術白書 (朝日新聞)
http://www.asahi.com/articles/ASJ5K3VS5J5KULBJ001.html

科技白書を閣議決定 AI・ロボットで変わる社会示す(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASGG19H2D_Q6A520C1EAF000/

以下に、ワーキングペーパーのエクセクティブサマリーを掲載します。

(エクセクティブサマリー)

科学技術イノベーション政策を議論する上で、ナショナルイノベーションシステムにおける基礎的な研究 (以下、基礎研究とする) の役割を明らかにすることは重要な課題である。本稿では、基礎研究を評価し、その社会的な影響を把握するための手段としてのノーベル賞に着目する。

本稿における議論の出発点のひとつとして、2000年以降の日本出身のノーベル賞受賞者の増加が挙げられる。第二次大戦以降、西欧諸国出身の科学者の受賞率が減少し、アメリカ出身の受賞者の割合が増加するなか、日本出身の受賞者の割合は2000年代以降増加している(図A)。このことは、科学技術イノベーション政策、特に基礎研究に対する支援施策の在り方を検討するうえでいくつかの視座を与える。なぜ日本出身のノーベル賞受賞者は増加したのか?彼らにはどのような共通点はあるのか?ノーベル賞受賞者の増加には、政府の科学技術に対する取り組みが影響しているのか。もし影響しているとすれば、どのような役割を果たしたのか?これらの疑問に対し、ノーベル賞が授与された研究成果および、これらの研究成果を生み出した科学者の業績・経緯について精査することで、優れた科学的発見がどのようにして生み出されたのかを明らかにするとともに、そのとき、科学者の研究活動を支援する政策がどのように実施されていたのかを精査することが本研究の目的である。

本稿では予備的な調査として、(a.) ノーベル賞の受賞・選考プロセスに関する調査, (b.) ノーベル賞に係る既存研究の調査, (c.) ノーベル賞受賞者が研究を行った時期に係る定量的調査および, (d.) 日本出身のノーベル賞受賞者に対する科学的キャリアの分析を行った.

図A. 主なノーベル賞受賞国の推移
(パーセンテージ; 出所: ノーベル財団 Nobelprize.org)
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ノーベル賞の授賞・選考プロセスに係るヒヤリング調査からは、厳しい守秘の下で厳格な手続きで行われていることを明らかにした。ノーベル賞の選考関係者へのインタビューで指摘されているように、地道な基礎研究や人材育成が重要な意味を持つこと、特に、国際的な学術コミュニティの中で認められることが必要不可欠であり、さらに社会的な意義を持つ研究成果が重視されるケースも多い。また、ノーベル賞の既存研究に係るサーベイからは, 従来個々の受賞者のケースを基にして、演繹的に社会的、科学的影響を明らかにしようとする定性的な研究から、学術論文や特許情報データを用いることで、科学者としての属性や科学コミュニティへの効果を推し量ろうとする定量的な研究が増加していることが確認できた。

ノーベル科学三賞受賞者を対象とした分析からは、(1) 受賞者の多くは30代中盤から後半にかけて受賞に至る重要な研究 (コア研究) を行っていること, (2) コア研究を行う時期は, 近年老齢化している分野 (物理学)と若年化している分野 (化学) が存在すること, (3) 研究から受賞までの年数は近年増加していること, (4) それ故に, 受賞時の年齢は近年特に老齢化していることを明らかにした。

また、日本出身のノーベル賞受賞者を対象とした研究キャリアの分析からは、受賞者の多くが多彩なキャリアを経ていることを明らかにした。また、他国出身のノーベル賞受賞者に比べ、コア研究に取り掛かる時期や、受賞時の年齢がより高いことを明らかにした(図B)。しかしながら、企業での就業経験や主にアメリカへの留学経験など、複数のコミュニティに属した経験や、外部の知識を積極的に吸収しようとする姿勢が、革新的な研究を生み出す上での十分条件のひとつとなったことは示唆できる。

図B. 日本出身のノーベル賞受賞者による主要研究時の年齢
(出所: 各種データに基づき筆者作成)
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科学者のキャリアは極めて多様であり、後にノーベル賞を受賞するような優れた研究成果を生み出すためのいわゆる「黄金律」は存在しない。しかしながら、留学制度、大学内組織あるいは科学コミュニティ内にて知識の交換を支援する仕組みづくりなど、制度上科学者が自由度の高い研究活動を実施し、それを後方から支援する制度設計が、革新的な研究を支援するうえで重要な役割を果たしてきたことを示唆できる。

今後の研究として、ノーベル賞を受賞した科学者の学術論文、特許、ファンディング情報を相互に突合することで、ファンディングやキャリアにおける職位や組織内での環境が、研究活動に果たした役割を精緻に分析する。これにより、科学技術イノベーション政策が科学者に果たす役割をマイクロレベルで解析し、最適な制度設計の在り方を模索することを可能とする。